2007年8月20日月曜日

2007/8/15-19 瑞牆山

夏休みの後半を利用して、奥秩父にある瑞牆山にやってきた。この付近の山では金峰山が有名で、瑞牆山は知名度の点では金峰山に劣るが、岩登り、特にクラッククライミングの岩場として関東圏では知る人ぞ知る存在のようだ(私は知らなかった)。実質4日間の滞在で、前半をマルチピッチのエイドクライミング練習、後半をフリーの練習に当てる。私はついて行っただけなので詳しいことは人任せだ。

到着してみると、かなり清潔なキャンプサイトに滞在できるようで、事前に想像していたサバイバルなイメージはいきなり覆された。広大な芝生の敷地の中に、水道、トイレ、テーブルやベンチまであり、家族連れのオートキャンパーが利用できるような場所で、冒険を求めてやってきた私は少々拍子抜けした。いつもこうした合宿に参加している同行していた方の一人が、しつこいくらいに「こんなの違う」と繰り返していたのが印象的だった。

1日目は瑞牆山の頂上に隣接する高さ40メートルの巨岩、大ヤスリ岩(上の写真の中央部頂上付近に見える斜めに傾いた岩)の頂上を終了点とする通称「ハイピークルート」を登攀した。ここで私は始めてアブミを使ったエイドクライミングを体験した。アブミとは、通常馬具の足をかける部分の事を指すが、クライミングでアブミという場合、ナイロン製の5段程度の縄ばしごの事を指し、この縄ばしごを2つ持ち、交互に岩に打ち込まれたボルトに掛け替えて高度を稼ぐ登り方をエイドクライミングのA1というグレードで表現する。(右の写真に写っている紺色のナイロン製縄ばしごがアブミ)

このアブミの掛け替えが、慣れないうちは非常に怖い。何せ全体重を抜けるか抜けないか分らない一本のちっちゃいボルトに掛けたアブミの上に乗せ、下を見ると落ちたら即死間違いなしの高度でぶらぶらしているのである。最初のうちは、垂直に切り立った壁のアブミ(と私)の掛かった一本のボルトを見つめながら「これが抜けたらら終わりだな」などと考えて異常に興奮していたが、そのうちにそんな事を考えても動作がのろくなってしまうだけだと気づき、全てを忘れる事にした。通常こんな危険なところで初めてアブミの掛け替えを体験するのではなく、安全な場所で練習してからこうした本番に臨むのが、物事の手順というものだと思うのだが、同行した経験豊かな先輩方は「ま、ダイジョブだろ」の一言で済ませていた。実際大丈夫だったから別に気にしていないが、大丈夫じゃなかったらどうするつもりだったのだろうか。ま、帰らされただけだな。たぶん。

アブミの掛け替えにも徐々に慣れ、この日は無事ハイピークルートを完登することができた。最後の1ピッチ、大ヤスリ岩の人工登攀で尋常でない緊張感を味わったため、その分頂上での満足感もひとしおだった。

2日目は瑞牆山頂上直下をダイレクトに登攀する本峰南壁上部フェースに行った。このルートを登ると、終了点がまさに瑞牆山の頂上なので否が応でも一般登山者の注目を浴びるのだが、頂上にいる登山者が拍手などして暖かく受け入れてくれるケースと、汚いモノを見るかのように冷たい視線を浴びせてくるケースと2パターンあるそうだ。私たちが頂上にたどり着いた時は、非常に暖かく迎えてくれたので、とてもありがたかった。この日の登攀は、前日の大ヤスリに比べると、難易度の点でも緊張感の点でも易しいモノだったので特に印象に残っている場面はない。ただ暑かった。写真は瑞牆山頂上直下からみた大ヤスリ岩。ここ瑞牆山にはなぜかこうした異様な奇岩が非常に多く、古くから山岳信仰の対象とされていたというのもうなずける。

3日目は、午後に東京に帰らなければならない人がいたので、午前中だけフリークライミングの練習をして、午後は温泉に行くことになった。キャンプサイトから比較的近くにある不動沢にある屏風岩を訪れ、時間もないので通称「おしん」と言われる5.8のルートを何本か登った。クライミングをやらない方は分らないと思うので簡単に説明するが、岩を登るルートにはたいがい名前が付いている。この名前は初めてそのルートを上った人が命名することができる。日本のアルパインクラシックルートには初登者の所属する山岳会やグループの名前が付いていることが多く、結構渋い名前も多いのだが、フリーのルートには自由すぎる名前がつけられている事も少なくない。「おしん」・・・いくらグレードの低いルートだからと言って、私個人としてはこういう命名センスは全く受け入れられない

ちなみに上の写真が「おしん」を登る私。(このブログを見るのは実際の私を知っている人しかいないはずなので、顔が出ても問題ナシのはずですが、私を知らない人は街でこの顔を見ても声をかけたりしないで下さい。びっくりしてしまうので。)恐ろしい顔をしてものすごい力んでいるが、これ、地上からたった50cm。ちなみにフリークライミングは「いかに力を抜いて登るか」という点が非常に重要なスポーツだ。

帰る予定の方が、私が登る後ろで「もたもたするな!バスが行っちゃうだろ!!」などとヤジを飛ばすので、さっさと荷物をまとめて温泉に向かうことにした。キャンプサイトから車で30分ほどのところに増富温泉という信玄の隠し湯というふれこみの温泉があるのだが、この温泉は非常に良かった。36度程度の鉱泉で、色も泥水の様な湯なのだが、30分ほど入って出てくると体がぽかぽかしてくる。温泉が体に良いというのは誰でも知っている事だが、体に良さそうだということを実際に体感したのは今回が初めてだった。

温泉から出てもまだ日が照りつける3時頃だった。そのままキャンプサイトに戻るのは灼熱地獄に自ら飛び込む様なものだということが分かり切っていたので、この後韮崎までおりて、合宿に参加していた超ベテランの方のお友達で、日本山岳絵画の大家、武井清先生のお宅までお邪魔して冷たい飲み物を頂くことになった。この武井先生は実際にご自身でもヨーロッパアルプスなどに登る現役の登山家でもあり、ご高齢にもかかわらず非常にパワフルだった。私は絵画の事はよく分らないのでコメントはできないが、自分で山の写真を撮っても、戻ってきて見てみると写真と実際自分の感じた風景が大きく異なると感じることがほとんどなので、自分の感じたまま絵を描けたら楽しいだろうな、とは思った。

4日目は不動沢と同じく、キャンプサイトに近い場所にあるカサメリ沢に行って名称不明のルート一本(おそらく前絵星岩のどれかのルートだと思う)と「トラバント(5.9)」、「猫の手(5.10a)」にトライした。トラバントはトップで登った方が結構苦労していたのに反して、何となく自分にはうまく登れるのではないかという予感がしたので、全てのパワーを振り絞って登った。5.9は今まで登った事がなかったが、登り切る事ができたので、非常に満足した。ただ、トラバントで力を使い切ったせいか猫の手ではほとんど何もできずにボーッと人が登るのを見ていただけだった。力をセーブして登る事ができなければ、長く遊べないのでつまらない。今回の合宿で、自分の持っているフラットソールのシューズ2つが両方とも全く私の足に合っていない事が分ったので、もっと足に合ったシューズで臨めば、また違った登り方ができるだろうと思っている。いや、靴が云々という事を口にするにはまだ早いかな。

瑞牆山に5日間いたが、この山域のスケールは大きく、我々が訪れたのはそのほんの一部だ。10ピッチを超すフリーのルートから、大ハングをひたすらA1で乗り越えるアルパインルートまで、まだまだ私のレベルでは到達できないが、いつか再び訪れてそうした課題を乗り越えたい。